soundwing-あの素晴らしい駄文以下のなにか

関西(大阪)のライブレポートを中心に更新。昔はフリーゲームや同人音楽のレビューをしてました。

Fifteen Hounds / MUYM

全年齢向け同人ノベルゲーム。プレイ時間は25時間ほど。


■あらすじ
異なる時間軸からやってきた未来人達が、己の時間軸の存続のために5 vs 5 vs 5の決戦を行うことになった。
大企業息子の「変り身」として扱われてきた蓮悟は、人質として争いへと巻き込まれる。
異常な殺し合いに翻弄される中、蓮悟の元彼女が何者かによって銃殺される。
殺したのは未来人の誰かなのか、それとも別の誰かか。
蓮悟は歴史を決める戦いに身を置きながら犯人を探す決心をする。


5人×3チームによるバトルロワイヤルモノです。
決闘は殺し合いが目的ではなく「鵺」を呼ばれる異形の首を取ってくるのが勝利条件。でも先取りされないためにお互いが命を狙い合うことになります。
前作・MADOGIWA稲中的なハチャメチャギャグからガラッとジャンルが変わっていますが、中身は変人ばかりでブラックジョークの数々。
シリアス路線も入りながらやはり毒の強いMUYM色は残っています。


文章は少し回りくどいところもあって、馴れないうちはすんなりと頭に入ってこないかもしれません。
決闘の設定が複雑な点、急なエロサービス展開(寸止め)、序盤から登場キャラがバンバン出てくるうえにモブキャラでも強烈な個性が付いているのが情報の整理のしにくさを助長しているのかも。誰が喋っているかわかりにくい場面も多かった。
しかし、キャラ特性がわかってくる1週目の後半あたりでは、次第に文章も馴染んできました。最後はほとんど気にならなくなった。


超人的な強さを持つキャラ達が繰り広げる死闘をただ傍観するだけの主人公……というのはよくある構図ですが、主人公がここまで徹底的に無力な人間として描かれているのは珍しい。
どの未来人にとっても主人公は殺してはならない人質であり、また主人公はどのチームにも協力する意味が無いので戦闘には加わらずただ振り回されるがまま。主人公でありながら完全な「脇役」です。しかし、「鵺」という無差別に人を襲うモンスターがいることで緊迫感を保っているのは上手い。
しかし、この主人公がかなり性格が歪んでるのでなかなか感情移入がしにくかったです。
特に彼女を冒頭でふっておきながら、彼女を殺した犯人を執拗なまでに探し求めるという点が最後までまったく理解できなかった。この点に同調できないってのはストーリー上大きな痛手となりました。


壮絶なバトルでは、モブキャラはもちろん、メインのキャラでさえあっさり死んでいくので、バトルシーンはかなり緊迫感がありました。
未来人だけでも人智を超える戦いなのに、殺戮モンスター「鵺」まで襲ってきて「こいつはメインだからどうせ死なないだろう」が通用しないシビアな展開に始終ドキドキ。この緊迫感はなかなかお目にかかれない。
最初はわかりにくかった各者の能力も理解できるとしっかりと個性があって面白い。
女キャラだろうが容赦なく死ぬのでリョナ好きな人にもOK(ぉ


戦闘が繰り広げられる後ろでは、主人公の元彼女を殺した犯人探しや色々な人間の思案が入り乱れています。こちらは予想が付きやすかったり、見せ方に難有りで衝撃が少なかったりで意外性はあまり無かったです。
でも本筋が面白くないわけではないし、キャッチーなキャラ達とスリリングな戦闘も手伝って、最後までダレずにプレイできました。


そして、このゲームの一番の見所はラストシーン。OPのあのセリフを最後にこういう形で持ってくるとはっ!!ビビッときました。
「今までの物語はこういうことだったんだ」とプレイヤーに突きつける作者側からの強烈な一撃。
単純に「上手い」とか「感動した」という満足感より、ある意味今までの戦いを全否定されるような不思議な感覚。
スタッフロールがセリフの出てくるOP曲というのがまたニクい演出。
人によっては「この25時間の長いプレイ時間はなんだったんだ」と思ってしまうかもしれない演出でもありますが、個人的には良い意味でヤラれた!
ワンシーンの衝撃ではラストのルート3ですが、全体の展開としてはクライマックスの緊迫感が半端無かったルート1が一番好きかもしません。


シナリオには問題点も多く、先に挙げた主人公の感情移入のしにくさに加え、伏線が回収しきれていない点があります。物語として肝となる要素がわからないまま終わってしまうのはどうしても不完全燃焼感があります。
大団円のEDが無いのは……色々思うところがありますが、あのEDに意味を持たせるにはこれが一つの形なのかもしれない。
あと、先に書いたように独特の文章と多大な情報量によるとっつきにくさでしょうか。
正直、プレイはじめは「イマイチかな〜」とも思いました。一周目も思い返すと面白かったものの、導入部分のわかりにくさが足をひっぱって「まぁまぁかな」程度の印象でした。


ホモ、ショタ、ロリ、無口、ナル、厨二、毒舌、天然、と味の濃すぎるキャラ達は個性的というより変人。最初は戸惑うものの次第に愛着が湧いてくる。
特に好きなのは男キャラの長谷川と重政。前者はホモ発言、後者は厨二発言がとにかく面白くてなんども笑わせてもらいました。普段目立たないのに終盤でいつも美味しい役を持っていく田之頭やイイヤツなのに不憫な藪もお気に入り。
女性キャラも魅力的で個人的には瑠理香が一番!実は積極的なところや時折見せるブラックな面が良かったです。SDキャラや誤字っぷりもかわいい。
クリスもストーリーの後になればなるほど好きになるし、紙谷や右京もジワジワと良さが染みこんでくる。イイキャラ揃いだ。


チーム単位ではシエラが一番好きでした。長谷川と瑠理香の二頭を代表するキャラの魅力と仲良さそうな雰囲気が良かった。エコーも出番が少ないのでチームとしては印象は薄いけど割と好き。ルート1のモールでの戦いは燃えた。
ロメオチームはメインヒロイン、裏ヒロイン、宿敵となんだかんだでメインになるチームですね。


動作はメニュー画面表示のシステム面とテキストウェイトの演出面どちらももっさりしていて難有り。特に右クリメニューは一番多用するスキップまで4クリックも必要と非常に使いにくかったです。これはプレイしていてかなり響いてきました。
残念ながらシステムとしてはプレイしにくい部類に入ってしまうかもしれません。
また、EDリストが無いので全体のED数がわかりにくい、バッドED後のおまけコーナーが数回しか無い、ミニゲームが難しいなどゲームとしてはかなり荒が目立というのが正直な印象です。


こういったバトル路線は、戦いを軸としながら恋愛モノや過去の因縁が大きく絡んでくるシナリオがほとんどですが、このゲームは女性キャラが多くいれど、恋愛色はほとんどなく、あくまでも死闘がメインな印象。ゆえにキャラの心理とかもあまり深く突っ込んで描かれてはいない。殺されるか食われるかのスリルが肝。こういうのは意外と珍しいかもしれない。


不満点も多くあるけど、睡眠時間を削るまで熱中してプレイできたのは確か。というか設定も、登場人物も、展開も、あまりに非日常な世界に持っていかるので、頭の整理を付けるのも難しいのです。
ただ、このゲームは深く考えると気持ちが沈んでいきそうなので、嵐のようなバイオレンスでスリリングな7日間(だっけ?)に身を委ね、ラストシーンで呆然と置いていかれるのがいいのかもしれません。
変な言葉になりますがただの不満だけでなく、「良い不満」も込みでこの作品が形作られているのかなぁと思います。


「泣ける」とか「鬱」とかそういうのでもない、なんとも表現の難しいプレイ感。あえて言うなら「無力感」や「やるせなさ」か?
誰にオススメ出来る作風ではありませんが、私は楽しんでプレイできたし、プレイ後は他に無い奇妙な感覚が残りました。
奇抜なキャラや設定だけではなく、芯のところで個性的ではあることは間違え無し。

いやー、これほど感想書きにくい作品も珍しい。


ちなみに現在、HPにて1ルートまるごと体験版がDL出来ます。興味があるかたは是非。


↓ネタバレ

  • ノベルゲームには中途半端な攻略要素を持たせない方が良い思っているので。ミニゲームの褒美なんてすごい面白いのに出現させるのが難しすぎる。
  • ちなみに私はこの人に打ってもらいました。素でやったらクリスにすら負けるほど弱い。
  • 最後のワンシーンは暦の顔とOPからのセリフと本当にグワッときた!「主人公を主人公にしない」というテーマを最後まで突き通したの作品滅多に無いのでは?作中で一切の活躍をしていない。本当にこいついなくても歴史的にはまったく影響のない存在ですよね。
  • 結局いままでの話に意味が無い、歴史は繰り返すというラストは物語としてはどうなのかとも思う。ただ、これはそういう作品なんだろうな。
  • 暦も一人で暴走するところとか気に入ったキャラだけど、メインヒロインのくせに目立つ場所は非常に少ない。最後のために「良いキャラを演じさせられた」ゲーム的にもかわいそうなキャラなのかもしれない。
  • ルート2はキャラが馴染み始めているのでスラスラ読めて楽しかったです。ここらへんから中断するタイミングが取れなくなってきた。EDは普通のゲームに近い感じである意味今作では異質かも。
  • しかし、ルート1であれだけ活躍した瑠理香が即退場とは……。しかも串刺し。
  • クリス生存ED一枚絵も手伝って非常に美しい終わり方。ルート3後に彼女の真意がわかって更に深みが増した気がします。それがあの最期……しかもそれは意味が無い。
  • ルート3はサブの紙谷、◯◯ルートはEDとして希望感があってかなり好きな部類です。しかし、やはりあのEDが印象的。
  • トゥルーED後のおまけシナリオは、あのタイミングで入れる必要はあったのかなぁとちょい疑問。紙谷が報われなくて、後味の悪さだけが残った気がします。
  • 紙谷の「濡れてきたーーーーーー!いや、汗のことね」にはコロッとやられた。かわいい。
  • EDの右京は妙に可愛いい。本編ではあまり主人公と絡みが無かったからなぁ。