soundwing-あの素晴らしい駄文以下のなにか

関西(大阪)のライブレポートを中心に更新。昔はフリーゲームや同人音楽のレビューをしてました。

2012/12/24 七尾旅人 @ 梅田クアトロ


クリスマス・イヴに七尾旅人のワンマン。大阪公演はゲストにU-zhaanとフルート奏者の本田朱美さん。スペシャルな一夜になるはず……が七尾旅人の体調不良により壮絶なイヴ・ライブになったのでした。


チケットはソールドアウト。
クアトロは椅子を並べてて人いっぱいながらゆったりした雰囲気。ステージにはクリスマスらしくライト、サンタの人形、クリスマスツリーが置いてありました。


この日、七尾旅人の体調が悪いとは小耳にはさんでいたのですが想像を遥かに越える絶不調。
きよしこの夜』のカバーからスタートするも、早くも咳き込んで歌えなくなる場面が何度かありました。
ただ声を出しにくそうにはしてましたが、声の響きは美しいとしか形容しようがない素晴らしい声。さすが。


体調はライブが進むごとにひどくなっていき、静かさがポイントになる『圏内の歌』や『湘南が遠くなっていく』も咳で世界に入りきれなかったところがありました。
MCも軽く冗談はいうもののいつものような余裕は感じられない。「歌えるかな?」と自分のコンディションを心配しながら進んでいきます。


U-zhaanは体調不良…食べ過ぎで来れなかったので抜きでやります」と言ってスタートした『アブラカダブラ』。タブラは七尾旅人が自分の声をサンプリングして再現してました。この曲でU-zhaanが出てこないってことは本当に休み?七尾旅人が瀕死状態で更にU-zhaanもいないとなると……。
U-zhaanが小さくなった〜」の一声でタブラ声のピッチを高くして「U-zhaanが大きくなった〜」で声が低く……と思ったらサンタの格好をしたU-zhaan本人がのそっと登場。


ここからはU-zhaan七尾旅人の漫才のような掛け合いMCが見られ、客席からも笑いが起こってホッとしました。
ユ)「綺麗なクリスマス・ライティングと旅人くんの悲壮なコンストラストがすごいよかったよ」
ユ)「いまエフェクトかかってる?地声でそんな状態になるまでひどくなってる?」七)「{エフェクタを切って}エフェクタかかってた(笑」
と今の状態を素早く笑い変えてくる息のあった2人。


えらくBPMの早い『真っ赤なトナカイ』など演奏もノってきました。
途中、七尾旅人がはけて本田朱美さんとU-zhaanのホルンでクリスマス・ソングを3曲ほどセッションする場面もあり。


セッション後に戻ってきた七尾旅人。顔色はマシになってるけど声の調子は悪くなる一方。
『どんどん季節は流れて』はお約束通り観客にコーラスを求める。でも「いままでで一番小さい声だ、助けて(苦笑」という泣き言もポロリ。
『Rollin' Rollin'』では自分のパートが歌えないぐらい体調悪くなってるのにやけのはらラップだけは張り切って歌うアホさ。「この熱が上がってく〜♪」と自虐的に歌うシーンもありました。けどこれが最後のお茶目でした。


ドラム缶パーカッションとダンサー、途中で本田朱美さん、U-zhaan七尾旅人が加わっての即興インストが入る。ダークな曲調。U-zhaanのタブラが打楽器なのにゴアトランスのシンセみたいな音を出しててタブラってすごい楽器だなと感動しました。


最後は七尾旅人のソロ。
最初は山下達郎の『クリスマスナイト』を歌おうとしたけど咳が止まらないので中止。
新曲の『探しものは靴下に』というクリスマスソングを披露。


この日一番の事件が起きたのはソロの3曲目『Memory Lane』を歌っている最中。ついに椅子に座っているのも辛くなって地面に伏してしまいます。意識が朦朧としてる様子でふらふらとアンプに倒れ込みそうになるのを客もスタッフも皆静かに見守ってました。僕も「倒れるぞ、スタッフも止めろよ」と思いながらも瀕死状態のアーティストがステージでフラフラしてるという初めて見る光景をただジッと見てました。
客席からは悲痛な「もういいよ…」の声も*1。3分ぐらいそんな緊迫した状態が続き、ついにU-zhaanが駆け寄ってきました。声は聞こえなかったけど、ユ)「もうやめる?」七)「もうちょっとだけ」という感じのやり取りがあったんだと思います。ポンポンと七尾旅人の肩を叩いてまたステージ脇へと戻っていくU-zhaan


椅子に這い上がり演奏が再スタート。
もう聞こえないくらい掠れてる声。『どんどん季節は〜』で「いままでで一番声が小さい(笑」と言われた客も誰となく歌い始めて七尾旅人をサポート。この美しい光景には涙がでました。
客の歌声に支えられてながら、最後にいままでで一番力強い声で『Yeahーーーー♪』と歌う(叫ぶ)姿には感動させられた。


『Memory Lane』を歌いきった時点で大きな拍手で迎えてあげたいのに、最後に9分半もある『リトルメロディ』にも挑む。この曲もみんなで歌ってサポート。何度も「すごく綺麗な声だ」と感謝をするでなく褒めながら途切れ途切れに歌い、弱々しくギターを弾いてました。
曲が終わると大きな拍手……「フー!」なんて声もなくただただ大きな拍手に包まれて帰って行きました。


電飾に囲まれた瀕死の七尾旅人を静かに見守る……壮絶なクリスマス・イブ・ライブでした。


「体調不良も跳ねのけてのすばらしいライブだった!」なんて奇跡のような話ではなかったです。ただ執念で歌う人間臭いステージ。


「仕事をやり遂げるプロ根性」なんて安いものでもないです。ミュージシャン、歌い手、表現者としての生き様を見せつけられました。
特にそれを感じたのが『Memory Lane』。この曲は福島で女の子が瓦礫からナニカを探しているのを見て作った曲。「Memory Lane 果てしなく続く Lady 瓦礫の街で 君はまだ諦めないまま あの道の途中でつぼみになった」という歌詞があるこの曲を歌い切るっていうのは歌でナニカを表現している七尾旅人にとってものすごく意味のあることだったんだと思う。


「体調不良だから頑張った」のがすごいんじゃなくて「歌/音楽でなにかを表現したり生み出す」という商業ではない音楽をやり続けてこのステージが形になったのに感銘を受けました。
リズムが崩れても音楽と成り立たせてしまうのも今ままで彼がやってきた音楽があってからこそ。


「歌いながら死ぬ」そんな映画のワンシーンを思わせるライブ。
間違えても最高のライブではないけど忘れられないイブになりました。



【セットリスト】
1.きよしこの夜
2.息をのんで
3.星に願いを
4.圏内の歌
5.サーカスナイト
6.湘南が遠くなっていく
7.エアプレーン
8.沖縄県東村高江の唄
9.アブラカダブラ
10.気球
11.赤鼻のトナカイ


12.本田朱美&U-zhaanのクリスマス・セッション


13.どんどん季節は流れて
14.Rollin' Rollin'


15.即興セッション


16.クリスマスイヴ(咳のため断念)
17.探し物は靴下に
18.Memory Lane
19.リトルメロディ

*1:あんな悲痛な「もういいよ…」をリアルで聞いたのは初めてでした