soundwing-あの素晴らしい駄文以下のなにか

関西(大阪)のライブレポートを中心に更新。昔はフリーゲームや同人音楽のレビューをしてました。

ぼくたちの変拍子 / Studio-Kurage


studio kurageさんの二枚目。前作で突如出現した注目のサークル二枚目はどうなるか?


曲調は耳あたりの良いオリエンタルな音色を使ったソフトなテイストのロック。
フォーク・ロック、ジャズ、フレンチポップ、AORといったムーディなジャンルの要素をブレンドし、10代が聴いても30代の落ち着いた心境になっちゃいそうな大人の音楽を作り上げてる。
作中ではっぴぃえんどの曲をアレンジしているし、全体的に細野晴臣の影響を感じます。


タイトルに「変拍子」とありますが変拍子を重視しているわけではない……というより自分が「変拍子」と聞いて思い浮かぶプログレ的なリズムチェンジを楽しむことより、定まったビート感を無くすことでフワフワと漂う音空間を演出する変拍子の利用方法です。
あんまり変拍子の部分に期待しすぎない方がいいかも。(特に重度の変拍子LOVERは)


ボーカルさんたちはキャピキャピ(死語)することもなくハスキーな魅力を振り撒きながら歌い、メインを張るピアノはショック材を挟んだような優しい音色を奏で、ベースやドラムもどこか人肌の暖かさがある感触。
夜を舞台にした踊る木人形たち、秋の道に飾られた水彩画、大人でも楽しめる絵本。原色は使わずシックな色が使われた音楽です。ドリーミーな夜が描かれた前作、緑の中の友達を描いた次作、そして大人のポップ感を出した今作、とぴったり音に合ったジャケを用意してくるサークルさんです。



ただクオリティは一気に界隈のトップレベルに食い込むまで急成長をしてますが、メロディが、こう、布のように漂ってる旋律で自分の好みからは外れていたりします。
特にメロディが印象的な「風をあつめて(はっぴぃえんど)」のカバーが真ん中に挿入されているのが、余計そう思わているのかもしれない。


完成度は今作の方が上だけど、心に残るフレーズが多かったという点で前作「真夜中のピアニッシモ」の方が好みかな。

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②インスト曲を受け継いでの茶太さん曲。メロディは良いのになぜか印象に残りにくい。ウィスパーボイスをそのまま使いすぎてるからかな?とはいえ、打ち込みの押し付けがましさをまったく感じさせないサウンドメイキングで今作のレベルの高さを伺わせてくれます


③個人的に一番変拍子を感じられるのはこの曲。色んなパートをパズルのように持ってきて変拍子と共に組み合わていく、って印象。メロディが弱いのとピースとピースのかみ合わせが弱くて散漫して感じるのが少々残念。
常にフィルインかというぐらい打点が動いてるドラムが特徴的。これはちゃ〜ちもーど時代からの個性ですね。以前はドラムが「彷徨っている」ような不安定さがあったけど、今作ではすごいまとまりができてる。独特のリズムワークをすっかりモノにしてます。


④何度か上で書いたように、はっぴぃえんどの「風をあつめて」のカバー。東レのCMで有名な曲ですね。
はっぴぃえんど時代はフォーキーだった細野さんの曲を、その後の細野さんのスタイルである電子音楽でリアレンジってのが面白い。前半まったり、後半から次第に盛り上がる。若干のコラージュ。意識的に再編成をしている気がします。
壊れかけたラジオ、古きよき日、素晴らしいメロディを生かす優しいアレンジメント。名アレンジです。
はっぴぃえんどといえば、日本語(言語)をロックのサウンドに乗せる点で革命を起こしたバンド。それは本作の他の曲の弱みとなっている箇所。だからこそあえてこの曲を入れたのか、ってのは勝手な想像でしょうか。


⑥春濱のNina_branchさんがボーカルを担当する最終曲。この曲はちょっと空気が違う。
曲調自体は他の曲と同じく穏やかな曲調なんだけど、音がしっかりと群を成して集まっていてメロディも一本の芯がしっかりと通ってる。そして次第にドラムン要素や歪みエフェクトで高まってきてラスト2分で爆発。この展開は鳥肌モノ!
特にNinaさんのボーカルが凄いことになってます。全体で盛り上げていく印象だけど分析的に聴くと、先頭を切って耳に入り込んでくる音、もっとも大きな音、もっともリズムを刻んでいる音、すべてはNinaさんの歌声。すごい歌い手と凄い作曲者の化学反応が起きた良曲です。

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ちょこちょこ辛口なところがありますが、冒頭に書いたように「思わず唸るほどのステップアップした完成度。だけど自分の好みからは外れた」ってのが今作に対する正直な感想です。更にワンランク上への通過点として重要な一枚かも。


今作は細野さんの影響が顔を出したように感じるけど、前作から続いて汲み取れるのはbermeiさんの音楽に似たフィーリング。曲の展開の仕方、ボーカルをどこまで前に出すか、フワッとしながらポップスから逸脱しないバランス感覚。studio kurageさんは今までありそうでなかったbermeiさんの正統なフォロワーなのかもしれません。


takezouさんがbermeiさんを好んで聴き、実際に影響を受けているかはご本人に話をきいてみないとわかりません。
もしかしたら単なる偶然かもしれない。
けど、ニカやジャズといった表面的なジャンルだけではない「bermmeiさんの遺伝子」を持つサークルさんがここにきて突如現れたと思うと……おもしろいなー。