soundwing-あの素晴らしい駄文以下のなにか

関西(大阪)のライブレポートを中心に更新。昔はフリーゲームや同人音楽のレビューをしてました。

2014/05/03 キース・ジャレット @ フェスティバルホール


かの有名なピアニスト、キース・ジャレットのソロライブ。チケット代が1万円と高価で悩んだけど「見れるときに見とかないと!」の精神で行ってきましたー。


ジャレットはジャズ・ピアニストとして捉えられることが多いですが、ソロはジャズの範疇には収まらない……どころか場合によってはカスりすらしない現代音楽やクラシックに近い音楽性で完全即興演奏です。ジャズ的な”ノリ”はほぼ無く、繊細さと構築美に重きを置いた音楽が奏でられます。


ご存知の方も多いかと思いますがこの日のこんな見出しで ニュースになりました。

「観客のせきで集中力がそがれてしまった」 キース・ジャレットさん、コンサート中に何度も演奏中断

http://www.j-cast.com/2014/05/04203927.html

このことについてはtwitterを検索してみると実際に現地にいた人の証言も多くあります。
ここで驚いたのが人によって言ってることが全然違う!ニュアンスによる小さな違いもあれば、第一部と第二部すら違う人もいてちょっとびっくり。私もライブレポを書いてて”(一番印象に残るであろう)一曲目が何か思い出せない”なんてことがよくありますが、そんなモノなんですかねぇ。
ここでは出来るかぎり私が体験した事実を書き残したいと思います。
なお、私は2階の3列目の席でした。ジャレットの表情がギリギリで”わからない”くらい。声もところどころ聞き取りにくかった。




会場のフェスティバルホールはクラシック公演などがメインのコンサートホール。どの席にいても均等に音が聴こえる響きの良さがウリです。
逆に言うと客席の物音も聴こえやすい。そこで件の咳。めちゃくちゃ目立ちます。半ホール先のビニール袋をガサガサする音すら聴こえてくるような状態。全員がマイクを持ってるような状態、と書いても言い過ぎではないぐらいです。
僕も隣の人の鼻をすする音が気になり、実際に演奏に集中できませんでした。繊細な音が続くジャレット・ソロでコレは致命的。


第一部はジャレットも咳に対して「もっともっと」と促したりとジョークに利用する余裕がありました。
曲調は明確なメロディのない静かでシリアスなモノばかり。3セット目ぐらいにやったライヒをちょこっとかすったようなミニマルピアノフレーズの曲が良かったです。
椅子から腰を浮かしたり、呻き声など彼のトレードマークも出てきて「あぁ、キース・ジャレットを見に来てるんだなぁ」と感動しました。


演奏をはじめて一度止めてまったく別のフレーズで再スタート……という場面が1,2度。
この時は”咳が気になって止めた”といより”頭の中の音楽がうまく鍵盤に乗らない”という彼の完璧主義と完全即興スタイルゆえの音楽的な調整に見えました。私としても「次にどんなフレーズが来るのかな?」と楽しみに見れました。


基本的にワンセットは短いかな?たしか1部で4セットぐらい演奏して20分の休憩時間へ。ドリンクコーナーは長い列が出来てたので3階に飾ってある過去の演目の写真を見て過ごしました。自分が生まれる写真が大半で、歴史あるなぁ……。




第二部の始まりに事件が起こりました。
ジャレットが登場していざ始まるぞ、と思いきや呆れた様子で舞台裏に戻っていくジャレット。すぐに「撮影と録音は禁止です」の日本語アナウンスがありました。おそらく盗撮が発覚したのでしょう。
すぐピアノの前に戻って演奏を始めたのですが、客席からの咳(いままでも同音量の咳はあったように思います)に「Oh!」と声が漏れて演奏がストップ。早足にステージを降りていきました。この時に前方の席の外国人が大声で何か言ってるのが聴こえました*1。ジャレットも短く何かを言い返していたのが聴こえました。


1分後ほどして戻ってきたジャレット。演奏を始める前にMC。「私はゼロから音楽を作り出してる。私も人間なんだ。(I'm human being)」と発言。すると先ほどの大声と同じ人が「That's why I talk to you (だから私は声をかけた)」と話しかけ、ジャレットはうんざりした顔で演奏せずに舞台裏に戻っていきました。
ニュースに書かれている「はなしかけられて」というのはおそらくこの場面のことでしょう。


なかなか戻ってこないまま「しばらくお待ちください」とのアナウンス。そのすぐ後に件の外国人客が帰っていくのが見えました。
ざわめき出す客席。しばらくして日本人スタッフふたりが客席にやってきて「声をかけた人は手を挙げていただけますか?」「(客)もう帰りました」のやりとり。


中断から10〜15分ほどを経てなんとか演奏再開。
2部はジャズに近いポップなメロディのある曲。個人的には2部の演奏はすごく良かったです。特に2セット目にレゲェのようなグルーヴが顔を出した…と思ったら引っ込む、を繰り返すアンニュイ感覚は面白かったです。


ただ演奏の最後の一音の指が離れる否かの早いタイミングで拍手がはじまるのが気になりました。余韻が……。
自分ですら気になったのでジャレットはもちろんもっと気になったでしょう。


コンサートも正常な軌道に戻ったように見えましたが3セット目、バラード調のメロディが紡がれようとした時に大きな咳が聴こえて演奏は終了。舞台袖へと歩いていく時にタオルを上へ放り投げキャッチをミス。落としたままに退場していきました*2
間もなくして「本日の演奏は終了です」とアナウンスが流れました。再開を求める手拍子もありましたが再登場はなく本当に終了。時間を見ると21:06。演奏予定時間の21:00は過ぎていました。
30分で終わったとかなら返金とかもありえるけど、演奏予定時間は過ぎてるので仕事はしていったんじゃないかな、というのが個人的な意見。


私はそのまますぐに帰ったのですが、客が主催者に講義したりと大変な事態になったみたいですね。ネガティブに興奮している声は気持ちいいもんじゃないですしクレームを聴かずに帰れてよかった。


記事タイトルにもあるように咳も原因のひとつではあるでしょう。
ただ一番の問題は撮影だと思います。これでおかしくなった。我慢できたものができなくなった。盗撮は生理現象でもなく明らかなマナー違反ですからね。


自分の中で出てくるフレーズをそのまま音にしているのでしょう。動作、仕草からそれが見て取れます。集中力が途切れたら駄目なのかもしれない。
正直、実際に紡がれる演奏自体もそこまでよかったかな?って気はしました。咳が気になったからかわかりませんが。


僕も今回の結末には100%満足はしていません。
ただ「これぞ気難しい音楽家!」ってのを目の当たりをした気がして貴重な体験できたなぁ、とドキドキしてる自分もいたのも事実。アクセルローズやマリリン・マンソンなど途中退場の伝説はいくつか聞いたことがありますが、まさか自分が現場に居合わせることになるとは。しかもロックではなくクラシックの現場で。




これが私が見たキース・ジャレットの大阪公演の様子です。
自分はキースではなく客(具体的には盗撮と話しかけ)に非があると思っているので、そっち寄りの書き方になってるかもしれませんが嘘は書いていないはず。
デリケートな問題なので間違いなどがあればご一報いただけると幸いです。


うーん、なんかいつもと違う感じのレポになったなぁ;


↑この演奏もいまのキース・ジャレットのソロにしてはかなりポップな方だと思います。
 現代音楽っぽいのも探したけどいいのが見つかりませんでした。

*1:twitter情報では「「A real genius won't be disrupted(本当の天才は乱されたりなんかしない)」だったとか

*2:twitterでいくつか見かけた”タオルを投げ捨てた”という表現には違和感を感じます