soundwing-あの素晴らしい駄文以下のなにか

関西(大阪)のライブレポートを中心に更新。昔はフリーゲームや同人音楽のレビューをしてました。

2011/03/20 闇鍋音楽祭 2011 初日(ソウル・フラワー・ユニオン、七尾旅人) @ 梅田Shangri-La

阪神大震災のとき、各地の避難所/設住宅で流行り唄や民謡を歌ってきたソウル・フラワー・ユニオン
最初は他のライブに行く予定だったんだけど震災の影響でキャンセル。気持ちがぽっかり空いたなか、気付いたら彼らのライブチケを買ってました。


会場の入り口に着くと当日券を求める人が長い列を作っていました。会場内も18年活動しているバンドだけあって10才〜50才ぐらいと老若男女が大量に集まってる。
ロビーに溢れている人をなんとか押しこんだところで、ソウル・フラワー・ユニオンの中川さんが登場。
第一声が「良い顔が揃っとるわ」。

七尾旅人

「声を掛けて下さった皆さんのおかげで、いま少しずつ音楽に戻ろうとしています。」のコメントともに東北大震災によせた曲をネット上にアップした七尾旅人
中川さんのコールで出てきてゆっくりとイスに座る旅人の顔はシリアス。
ビートルズ(会場BGM)切ってください。あんまり好きじゃないんで」も冗談なのかわからないような危うさが漂っている。
平均年齢35くらいのフラワーのファン層に戸惑ってるのもあるだろうけど、それを抜きにしてもいつものような飄々とした余裕は感じられない。


今日の七尾旅人は変態さはほとんど無く「弾き語りの七尾旅人」でした。


一曲目は「中川さんの顔を見たら沖縄を思い出したので」と『沖縄県東村高江の唄』をしんみりと歌う。
そのまますぐにピノキオの『星に願いを』を独自日本語化したカバーで。こちらもしんみりと。ただ……なんだろう。どこか空虚で気持ちが入りきってないような気がする。
3曲目は『あたりは真っ暗闇』。いつもより荒々しいギターのストロークはもはや音が割れそうで、歌も透き通り率が普段の7割に聴こえる。「ほんの一息のうちに夜がきて」「お前はどこだろう ただ暗がりに手を伸ばすけれど」「俺達の小さな家 浮舟みたい」「恋した女さえ見分けられない」と歌詞の節々が奇妙なほど今とリンクする。曲が進むにつれ少しづつ熱くなっていく旅人の歌。
曲の途中に泣きはじめた赤ん坊から連想して『赤ちゃん』。赤ん坊を前にして聴くと本当に良い歌詞だ。一瞬だけエフェクト&ループマシーンを使ったお得意の音弄りでノイズを効かせる。爆音なのに不思議と赤ん坊は泣かない。


歌い終わると震災が起きてからの生活の話を始める。軽く冗談は飛ばしてはいるものの、震災と今の日本に対する考え方はナイーブな音楽家。そこにはルックスも歌い方も大きく違うけど、あの非現実感の漂う初期の七尾旅人がいました。
そして、震災によせて歌う『帰り道』。何か動きたい、でもどうしたらいいかわからない。そんな今の七尾旅人そのものが表れた曲なのかな、と。YouTubeでアップされているのを見てもそんなに響くものは無かったんだけど、この夜に生で聴いて自分にとっても特別な曲になった。


『帰り道』を歌って少し踏ん切りが着いたのか、MCに笑顔が出てくる。
本日の客イジリの標的となったのは前列の赤ちゃん。「虫の鳴き声みたいに口笛吹ける?ハードル高い?事務所に禁止されてる?」といつもの軽い口調。赤ちゃんがなかなか吹かないからお父さんでもと言って二人で口笛を吹き合って「男二人でなにやってんだ」なんて場面も。あぁ、旅人らしい緩い空気だ、とこっちも安心する。
そして「皆も吹いてみてください」の一言で会場内に口笛が充満。照明で暗いフロアで鳴り響く口笛は本当に虫の鳴き声みたいで幻想的。忘れられないワンシーン。
虫の泣き声のSEから『どんどん季節はながれてく』。会場のみんなにコーラスを歌ってと求めると、客は大合唱で答える。七尾旅人ファンは3割もいないだろうに大合唱。すごい!緊張感が漂っていた会場が一気に温かくなった。旅人がまったく音を鳴らさなくなってもしっかりと歌う客。これファンが集ってるライブでもかなり難しいのに。「中川さんがソウル・フラワー・ユニオンのお客さんはやさしいから大丈夫」と言ってたらしいけど本当だ。これがソウル・フラワー・ユニオンが築きあげてきた能動的な客なんだろうか。


なだれ込むように『Rollin' Rollin'』。こちらでもコーラスで大合唱。ラップでマイクをフロアに向けるもさすがに対応できなくて、やけのはらの声を真似してラップ。どんどん高まっていく旅人の声。やっぱり名曲だ。
そのまま綺麗に最後までいくかと思ったら「OSAKA BAY BLUES」の「Hold me tight」を急に歌い出してぶち壊し笑い(失笑?)を誘う。でもそのあと、サビの繰り返しをスピード3割増しで歌ってしっかりと湧かせるのはさすが。
最後は「歌う時にいかにしてゲップをごまかすか」というどうでもいいMCのあとに『リトルメロディ』。
拍手に包まれてステージを後にする七尾旅人は出てきた時よりだいぶすっきりした顔になっていた。「大阪のみなさんに元気をもらった」と言ってたけど音楽によって一人のミュージシャンが回復していくのを見て僕達も元気をもらいました。

ソウル・フラワー・ユニオン

短いセッティング時間を経てソウル・フラワー・ユニオン


『ラヴィアベール』で幕開け。「ラヴィエベル クソッタレ〜」の大コール。
中川さんを筆頭にメンバーがとにかく良い顔、良い笑顔をしてる。今の状況、色々とプレッシャーを感じる立ち位置だろうに楽器を持って佇んでる姿を見るだけで元気がもらえる気がする。「今日は笑って、泣いて、もう全部出してええから。いい夜にしよう」


『松葉杖の男』『死ぬまで生きろ』明るい曲が続いてるのに不思議と流れてくる涙。周りを見ると何人も目を赤くしてる。ドラムの伊藤さんも3曲目で既に泣き顔。こんな初っ端から涙が止まらないライブは初めてだ。ライブ中に幾度もフラッシュバックする震災の映像。けど中川サンたちの笑顔と音がポジティブなパワーをくれた。


選曲はベスト盤で言えば「Ghost Hit 00〜06」にあたる「スクリューボール・コメディ」〜「カンテ・ディアスポラ」の曲が多かった。『サヴァイヴァーズ・バンケット』『荒地にて』『Crazy Love』『そら』と名曲ラッシュ。演奏も熱が入っており、とくに伊藤さんのタイトなドラムがすごかった。


MCでしきりに言ってたのは「今回は長期戦になる。いま何も出来なくて無力感を感じている人もいると思う。でも、いつか出番があるから。」ストレートだけど強烈に残ってるメッセージです。
関西人らしいとぼけた口調で喋るけど、今までずっと活動してきた経験に基づく言葉の節々には力がありました。


ギターを三線に持ち替え「阪神大震災の時、一度も自分たちから押しかけでライブをしたことは無い。呼ばれた時だけ行った」と当時のエピソードを語って始まったのは『アンチェイン』そして『満月の夕』。
正直なところ『満月の夕』は東海大震災そのものにはまだ早いように感じた。でも、近いうちにこの曲が本当に意味で必要になってくるときがあるはず。ソウル・フラワー・ユニオン阪神大震災での活動で色々なことで感じてきたのをヒシヒシと感じました。様々な想いと共にゆらゆらと揺れる大勢の手はなんだかんだでこの夜のハイライト。


『がんばろう』で拳を突きあげて『平和に生きる権利』キリッとした演奏でクールな情景を思い浮かべ、本編最後は『海行かば空行かば踊らむば』。疲れをまったく感じさせない大騒ぎ。


アンコールはモノノケサミットを続ける理由になったという『安里屋ユンタ 』から『people get ready』。『people get ready』がこんなイイ曲だと初めて知った。ジーンときました。
おそらく時間が押してる中で「あと一曲」と『うたは自由をめざす』もしっかりと決めてくれた。
メンバーがステージを去っても、終了のBGMに合わせて収まらない手拍子。踊り続ける人達。最高の夜でした。


震災でナイーブになったアーティストを客が見守る構図になった七尾旅人
その客にとびっきりの貫禄でパワーを注ぐソウル・フラワー・ユニオン
偶然にも二組が表裏の関係となった奇跡的な一夜。
とにかくいっぱいのパワーをもらった。元気が湧いた。なんか吹っ切れた。この夜の宴に参加して良かった。
これ以上に音楽の力を感じた日は無いです。
帰りに地震以降音信不通だった友達から連絡が来たのもまた奇跡。




裏路地からうたは自由をめざす
震災地からうたは自由をめざす
東京からうたは自由をめざす
大阪からうたは自由をめざす
(うたは自由をめざす @ 闇鍋音楽祭2011)